皆さんベストは着ますか?現代の日本ではスーツを着なくてはならない職業も減っていきカジュアル化が加速しています。僕のお客様でも「今までもスーツが当たり前だったからスーツの方が楽」という方や、若い方では「スーツを着る機会が減った事から逆にプライベートでもスーツをかっこよく着こなしたい」というカジュアルシーンでの着回しのためにオーダーされる方がいます。
しかし、大抵のお客様はジャケットとパンツの2P(ツーピース)でのお仕立てが多く、2Pにベストも含めた3P(スリーピース)でお仕立てされる方は本当に少なくなっています。
そんなベストですが、歴史は古く様々な変化を遂げて現在の形へと確立しました。
今回はそんなベストに焦点を当てて「歴史」を解説していきます。
目次
ベスト、ジレ、チョッキ…?
皆さんは上の写真のアイテムをなんと呼びますか?
ベストですか?ジレ?またはチョッキ?
現代の日本では一般的に「ベスト」と呼ばれることが多いです。
しかし、実は様々な名で呼ばれるこのベスト。例えばおじいちゃん、おばあちゃんが「チョッキ」と言っているのを聞いたことがある方もいるかもしれません。また、紳士服コーナなどで「ジレ」とベストを紹介されたことがある方もいるかもしれません。
実は、全て同じものを指していますがそれぞれの呼び名があります。
複数名前を持った人というイメージでしょうか。そんな人はいないかな…すいません。
では、それぞれどのような経緯からその名で呼ばれているのかご紹介していきます。
これを知っていれば、どの名前で言われても混乱せず済みますし、その人がどのようなこだわりを持った人かというのも垣間見えてきますよ。
ベスト
ベストとはアメリカでの呼び名になります。
ジレ
フランスではジレ(gilet)と呼ばれ、ジル(gille)という人物が生みの親とされ始めて作り着用したからという説と「短い上着」という意味のスペイン語ジレコ(jileco)から名付けられたという説があります。ジレと言われた場合はフランスでの呼び方をしていると認識ください。
ちなみにフランスでベストはジャケットやコートなどのアウター類を指すという事には注意が必要です。これには元々フランスではベストに豪華な装飾品が付けられていたことから装飾が豪華なものもベストと呼びます。これは歴史のところで解説していきます。
⚠️【フランス】⚠️
・ジレ→3Pなどで使われるベストのこと(インナー的要素)
・ベスト→ジャケットなどアウター的な要素
チョッキ
日本では昔からチョッキと呼ばれていますが、現在は滅多に呼ぶことはありません。ご年配の方がたまに使われますが業界では死語とされ使われません。
チョッキと呼ばれるようになった事にはいくつか説があり、鎖国の時代唯一開国し貿易をしていたポルトガル語のジャッケ(jaque)という言葉が訛って広まったという説や、オランダ語のジャク(jak)が訛り広まったという説もあります。しかしこの訛りからの説はあまりにも多くなかなかこれだと断定できるものは少ないです。
また、「直衣」や「直着」という日本語から訛り、広まったという説もあります。これらは幕末の頃にはすでに使われていたということが分かっています。
ベストの歴史
ベストの始まりは13~14世紀まで遡ります。
当時の軍服の護身服として用いられていたプールポアンと呼ばれるものが起源とされています。
画像をみてください。いかにも防護服ですね(笑)かなり強そう
プールポアンは英語ではダブレットと呼ばれ、軍服がだんだんと一般市民にも広まっていきました。
当時は戦場での防護としての役割に加え防寒の目的もあったとされています。
日本でいうところの戦国時代の甲冑のようなイメージでしょうか。
この頃のベストには袖が付いていることが特徴で、見た目では現在のベストとは大きく異なっていたことが分かります。
しかし、17世紀になりプールポアンは姿を消してしまいます。
ベスト命名
「ジュストコール」の誕生です。フランス革命まで着用されていた着丈の長い上着の事で、フランスではこのジュストコールの下に着るものとして1613年頃前丈が膝下まである長い胴着を着る習慣が生まれます。これをベスト(veste)と呼ぶようになります。
フランスで誕生したベストが英国に渡りチャールズ二世の目に留まります。
実際にチャールズ二世が着用しベストと改めて名付けたことで一般市民にも広く浸透します。
政治家であったサミュエル・ピープスの日記によればチャーチル二世がベストと名付けたのは1666年10月7日「衣服改革宣言」の中とされており、これはスーツ形式の成立を意味します。
ウエストコートの誕生
現在のスーツシーンでは基本的にジャケットの前ボタンは閉じて着ることが普通ですが、ジュストコールの中に着ていたベストは常に前を開きベストを見せる着こなしをしていたそうです。
というのも、当時のベストは現在のベストとは違いかなり派手でした。これは貴族たちが身分や立場を証明(見せるつけるという意味合いが強い)するためになります。
1677年にフランスで執行された「贅沢禁止令」では、ジュストコールは発令に伴い質素になりましたが、ベストだけはますます豪華で華やかに派手になっていきます。ジュストコールの写真を見るとその中のベストにも装飾が多く施されていることがわかります。
今のベストは、どちらかといえばジャケットの下に着るものということで、派手ではなくジャケットと共地で仕立てられることを考えても現代と当時のベストに関する価値観の違いが垣間見えます。
フランスではどんどんと派手になっていったベストですが、その頃イギリスではベストの袖をなくし「ウエストコート」と呼ぶようになります。
ウエストコートはフランスへと逆輸入されフランスでは1700年後半より「ジレ」という名で呼ばれ、この時点でベストは現在と同様袖のない形となり、前見頃と後見頃で生地を変えて仕立てる習慣が完成します。
それまで豪華絢爛なベストに慣れ親しんでいたフランスにとっては、このシンプルなウエストコートがとても新鮮に見えたと言います。
しかし、一度はシンプルに心動かされたフランスでもジレとなった後も豪華絢爛な発展になっていきます。これは1840年に入りジャケットの登場より現在のベスト(ジレ)へと変化していき、1870年代、スリーピースでスーツを着るよという考えが定着した後に、ベストは紳士服の定番アイテムとなったと言われています。
僕はフランス=派手好きというイメージはそこまでありませんがあなたはどうですか?
ベストへの派手への追求を未定るとフランスの派手好きには驚かされますね。
日本でのベスト
日本では、幕末から明治時代にスーツというものが着られるようになったという説があります。
上記の写真は見たことがあるかと思います。有名な写真をあえて持って着ましたが、「岩倉使節団」です。明治4年から明治6年にかけてアメリカ・ヨーロッパに派遣された使節団です。右端の大久保利通をご覧ください。ベストを着ています。
これには、自国だけではなく西洋の国々とも外交をしていく上で平等な立場でやりとりをするために着用がなされたと言われる事が多いです。
その人を見る上で服装というものが昔より大切にされていた事がよくわかる事例かと思います。
当時、西洋文化ではなく和装を貫いていたのならば現代の僕らもまた当たり前の様に和装を着ていたのか?
個人的にはすごくロマンがあるお話です。
まとめ
さて、今回は「ベストの特に歴史についてご紹介してきました。
様々な呼び方があったり、ベストといってもアメリカとフランスでは少し違うものになってしまう。
これも凄く面白さがあります。歴史や成り立ちを知ればなぜそう呼ばれるのかどんな意味なのか分かってきます。
何気なく存在するアイテムも現代の形になり現在まで着られているにはそれなりの意味があるんですね。
是非あなただけの”ベスト”な”ベスト”を見つけてカッコよく着こなしてみてくださいね!
…
…お後がよろしい様で。また次回!
【ベスト〜歴史〜】
・ベスト:英語
・ジレ:フランス語。フランスでベストはアウターを指す。
・チョッキ:日本語。
・軍服の護身服であるプールポアン(ダブレット)が起源。まだ袖付き
・ジュストコールが誕生しその中に着るものとしてベストと呼ばれる。
・英国チャールズ2世による1666年10月7日「衣服改革宣言」によってベストと改めて名付け一般市民に広く浸透。
・英国でウエストコートが誕生しシンプルで袖のない形へと変化。
・ウエストコートがフランスに逆輸入されジレと呼ばれる。
・日本では幕末から明治にかけてスーツを着るようになり、それに伴いベストも着用。
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