服装において「どんな服が好き?」や「普段どんな服装してるの?」という質問をされたことはありませんか?あなたはこの質問になんと答えますか?
プロフィールにも書きましたが、僕自身、服について無知でただ毎日あるものを着るだけでファッションというものが好きではありませんでした。そんな時オシャレな子が買い物に誘ってくれて一緒に買い物に行った時「どんなファッションが好きなの?」と聞かれ(どんなファッションって言われても…なんて説明するの)と本当に困った時のことを今でも覚えています。
こんな時、一言で説明できるのが「スタイル」です。カジュアルシーンでは「アメカジ」や「ミリタリー」などが該当します。ではスーツではどうなるのかスーツを購入しにいきスタッフの方に「どんなスーツが好みですか?」と聞かれた時にはどう答えるのか、自分の好みを適切に相手に共有しないと自分の理想の商品にたどり着くまでに時間がかかったり、これがオーダーの場合は仕立て期間待ったのに思っていたのと違う。ということになりかねません。
では、どう答えるのがいいのか。そして自分の好きなスタイルは何なのか。ご紹介していきます。
目次
国柄別スーツのスタイル
ブリティッシュスタイル
英国(イギリス)のスタイルです。英国といえばやはりメンズファッションの聖地と言われる様に、その歴史と文化から伝統的で古典的な魅力があります。それゆえにトラディショナルな印象が特徴です。
紳士服、特にスーツにおいて英国式というのは原点とされます。
イギリスはロンドンの中心部メイフェアにあるサヴィル・ロウと呼ばれる通りには深い伝統と世界最高の技術で仕立てられる仕立て屋が立ち並び、タキシード誕生の地でありナポレオン3世やチャールズ皇太子などから世界各国のセレブが仕立てる、まさに紳士服の聖地として知られています。ビスポーク(注文紳士服)で仕立てられるスーツモデルは「ブリティッシュ・トラディショナル」と呼ばれ、これぞブリティッシュスタイルという風合いがあります。
雨が多く湿気が多いという土地柄があり、スーツの形くずれを防ぐために身頃にも毛芯と呼ばれるハリ感のある芯やボリュームのある肩パッドなどで造形的なシルエットが特徴です。
「テーラードショルダー」と呼ばれる広く角張った肩線からウエスト部分を絞りヒップ周りの裾部分でフレアさせるというしっかりとしたX型のシルエットが特徴です。
右側腰ポケット部分の上に小さなポケット「チェンジポケット」も英国式の大きな特徴です。
《英国スタイル》
①ボリュームのある肩パッド。広めの肩幅
②ウエストは絞り裾で広くとるX型のシルエット
③右前身頃にチェンジポケット
イタリアンスタイル
現代において最もベーシックなスタイルとして定着しているのがイタリアンスタイルです。
イタリアは、歴史においてイギリスやフランスに生地をおろす土地としての背景がありますが1970年代から勢いを取り戻し現在ではファッション大国の1つとしての地位を確立しています。1986年にイタリアのテーラー達によってイタリアンクラシックの素晴らしさを世界に知ってもらうという目的のもと「クラシコ・イタリア協会」結成され、イタリア式のスタイルを以後「クラシコ・イタリア」と呼ぶようになりました。
ここでいうクラシコとは模範的・正しいという意味を持ち、最高級なイタリアンスタイルという意味合いを持ちます。一見すると英国式と似ている部分も多いですが、根本的な考え方として着やすさに重点をおき男性としてのセクシーさを表現しておりスタイリッシュな雰囲気が特徴です。
ジョルジオ・アルマーニの登場以降はモード界でも世界最高水準に達し、現在でもメンズファッション界をリードしています。「クラシコ・イタリア」と呼ばれる英国式を基準としながら着心地の良さにもこだわった代表的な仕立ても存在します。
また、イタリアの面白いところとしては、地域によっても仕立てに違いが出る事があります。昔ながらの仕立てを中心としたローマ。「サルトリア・ナポレターノ」と呼ばれる斬新で革新的なスタイルから世界的にも注目されているナポリなどが代表的です。
・ローマスタイル
ローマスタイルとはローマを中心に1950年代半ばに流行したスタイルを指しスタイリッシュでセクシーなイタリアンスタイルの中でもローマスタイルでは、肩幅も広く取り裾をがっつり切り落としたカッタウェイスタイルで仕立てられ、サイドベンツが取り入れられるのも大きな特徴とされます。
・ナポリ仕立て
「サルトリア・ナポレターノ」と呼ばれる仕立てで、柔らかく軽やかな風合いでボディーラインに沿った身体にフィットする仕立てが特徴です。
マニカ・カミーチャと呼ばれるギャザーを入れたシャツのような袖の付け方をする雨降り袖が特徴です。日本ではなかなかギャザーを入れた袖付けは見られませんがアームホールを小さくし袖をいせ込み取り付ける事で雨降り袖を表現している事が多いです。アームホールを小さくする事で可動域が大きくなり機能性も増します。それに合わせ袖も細くスタイリッシュで全体的にも細く見えるのが特徴です。
「船底」を意味する「バルカポケット」と呼ばれる胸ポケットが付くのもナポリ仕立ての特徴です。職人達が私の技術が1番だという技術の競い合いをしている中で、あえて難しい湾曲した船底を連想させるポケットを付けたところがバルカポケットの始まりという説や胸部を立体的に見せ型崩れを防ぐために付けられたという説もあります。
「キッスボタン」と呼ばれるロマンチックな名前の仕立てもナポリ仕立ての特徴。これは現代においてもスーツにおいてベーシックな袖口ボタンのことで、突き合わせではなく、ボタンをミリ単位で重なるように取り付ける仕立てのことで、これも職人による仕立て技術を見せるために生まれたという説があります。ミリ単位でボタンを取り付けるという工程は非常に精密で高い技術が求められます。それぞれの重なる範囲が違うとバランスが悪く見た目も悪くなります。その分、綺麗に取り付けたる事ができれば袖口にも絶妙な立体感が生まれ高級な雰囲気になります。
フラットテーラリングと呼ばれる、動きやすく軽さを求めた仕立てとなり裏地や毛芯などの副資材も極力使わず作ります。
《イタリアンスタイル》
①バルカポケット
②マニカ・カミーチャという雨降り袖
③全体的にシャープなシルエットで男性のセクシーさを重視
アメリカンスタイル
アメリカのスタイルです。「アメリカントラディショナル」と呼ばれる型があり、アメリカの伝統と歴史を感じられる仕立てがあります。
アメリカの大きな特徴としては、実用性に重点を置いた仕立てが特徴です。
自由と平等の国アメリカならではの特徴として、誰が着ても平等に見えるというものがあります。これには元々ヨーロッパでは階級社会で身につける服によって階級を表していました。しかしアメリカでは国の誕生から平等と自由を掲げていることから主張の少ない誰が着ても平等な見た目というスタイルになったと言われています。
アメリカンスタイルにおいて代表的なスタイルを紹介していきます。
アメリカントラディショナル
トラディショナルとは伝統的なという意味がありますが、これはアメリカ東部ニューイングランド地方を中心としたものを指し、日本では「トラッド」と呼ばれています。
「トラッドI型」と称されるアメリカを代表するスタイルとして、狭めの肩幅の「ナチュナルショルダー」と前ダーツを取らずあまりウエストを絞りすぎないボックス型のシルエットである「ストレートハンギング」があります。
これは、アメリカの紳士服の老舗「ブルックス・ブラザーズ」が1895年に発表したナンバーワン・サックスーツを母体として発展し1918年に確立したと言われています。
ニュートラディショナル
アメリカントラディショナルをベースに、より現代的に改良したスタイルでフロントボタンを2つにし前ダーツを取り入れウエストの絞り分量を多くし強弱をつけるのが特徴です。
ニュートラディショナルは常に改良と進化を遂げ、流行によってそのスタイルを少しずつ変えていくのも大きなとくちょと言えるでしょう。1960年代半ばに登場したものを「トラッドII型」と呼び、80年代には「ニューヨーク・トラッド」として人気を集めました。
アイビースタイル
アイビーとはアメリカ東部の有名私立8大学であるハーバード大学・イェール大学・プリンストン大学・コロンビア大学・ペンシルベニア大学・ブラウン大学・ダートマス大学・コーネル大学の8大学のフットボール連盟である「アイビーリーグ」が1954年に結成され、その大学の象徴(シンボル)が鷹であったことや学生やOBによって着られてきた伝統的なスーツを元に生まれたトレンド(流行)からアイビールックと名付けられました。
肩幅が狭い「ナチュナルショルダー」と前ダーツを取らないボックス型のシルエットである「ストレートハンギングなどアメリカントラディショナルをベースとしており、フロントボタンは間隔の広めな3つボタンでそのうち上2つのみを留めてスタイリングします。肩線から第一ボタンまでの距離(N点)が短く詰まって見えるのも特徴です。全体的にステッチが施されておりクラシカルな雰囲気があります。
ベントにおいてもモーニングコートに見られるフックベントが使われるという特徴もあります。
ベントについてはこちらで詳しく解説していますのでよろしければご覧下さい。
《アメリカンスタイル》
①ナチュナルショルダーという狭めな肩幅
②ストレートハンキングという前ダーツを取らないボックス型のシルエット
どうしてフレンチスタイルはないのか
これまでで国柄別にスタイルを見てきましたが、スーツを仕立てる際フレンチスタイルという言葉を聞く機会はないかと思います。では現代のファッション界において絶対的な地位にあるフランスの代表的なスタイルはないのでしょうか。
正しくは、フレンチスタイルは形を変えて現代にも存在します。しかしそれは今までに紹介したブリティッシュやイタリアン・アメリカンスタイルの様な歴史や土地柄などから長い伝統として確立したスタイルではなく毎年開かれるパリのメンズコレクションで発表されるスタイル、デザイナーが提案する斬新でトレンドなスタイルを指します。現代においてこの様なスタイルはフレンチスタイルとは呼ばず「モード系」という風に呼ばれます。
元はドロップショルダーやコンケープドショルダーなどで見る「フレンチスタイル」というものが存在しました、しかし時代と共にその特徴も失われフレンチスタイルという言葉もそれに合わせて無くなってしましました。
今後もトレンド(流行)になるスタイルというのは国柄から生まれるものではなくデザイナーが作り出す個性的で斬新なスタイルです。今後もこの傾向は変わることはありません。
しかし、モード系はビジネススーツとして着用することができないものも多いため、ブリティッシュ・イタリアン・アメリカンという国柄のスタイルはスーツを着て働く人には今後も基本となることに変わりはありません。
まとめ
今回は、スーツの型・スタイルについて解説していきました。
それぞれのスタイルに様々な特徴があり小さなデザイン、ディティールの違いでも着用した際の印象は大きく変わって着ます。そんなに多くの種類があるわけでもないので是非ブリティッシュ・イタリアン・アメリカンという3つのスタイルそれぞれを1度実際に着用してみて欲しいです。
スーツの好きなスタイルが決まると、その他のアイテムもその国のブランドで揃えたくなったりします。ファッションをより深く理解し好きになるキッカケとして自分の好きなスタイルはどの国なのかを知ることは大切です。
【スーツの型・モデルまとめ】
・ブリティッシュ(イギリス)・イタリアン・アメリカンスタイルが存在する。
・ブリティッシュスタイルはスーツの原点でありテーラードショルダー、チェンジポケットが特徴
・イタリアンスタイルは地域によっても仕立てに違いが出る雨降り袖、バルカポケットが特徴
・アメリカンスタイルは主張の少ない誰が着ても平等な見た目が特徴
・デザイナーによって生み出される斬新で革新的なスタイルを「モード系」と呼ぶ
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